第2回 ジェットコースターのお話

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 ジェットコースターのお話をしたいと思います。すみません。連載第2回目も,いきなり本題に入ります。「ゆるゆる時間(たいむ)」という連載なのでですね,前回は野球観戦のお話,今回はジェットコースターのお話ということで,本当にゆるゆるでいきますね(大丈夫かなあ)。

 さて,時期的には,前回の東京ドームでの野球観戦(我がベイスターズの逆転勝利)よりまえの出来事なのですけど,8月上旬に,学生と焼肉を食べに行きました。

 学生というのは,おしゃれな大学として有名な(と,その大学に所属している先生がいってよいのかわかりませんが,一応アピールしておきます)A山G院大学で,AG学生の間では,ツイッターに「AGU」と表記する学生も多い,あのOモテ参道にある大学の学生です。

 わたしはこの大学の法学部で4月から先生をやっています。前期には担当科目で「プレゼミ」というのがありました。本格的なゼミ(本ゼミ)は大学3年生,4年生で取るものですが,それよりまえの大学2年生のときに,少人数の演習をやって慣れておこうという,最近この大学(法学部)で新設された半期科目です。このプレゼミでは,わたしは「法学コミュニケーション」というテーマを設定して,法律を使って「読む」「書く」「聞く」「話す」さらに「考える」「調べる」をできるようにするための演習を実施しました。内容は,今回は割愛します。

 このプレゼミは残念ながら前期のみで終了となりましたので,前期の定期試験が終わったあとに(そしてわたしの試験監督業務も終わったあとに),プレゼミのゼミ長をやってくれたT君と,副ゼミ長をやってくれたMさん,そしてMさんのお友達のIさん(Iさんはわたしの授業は受講していませんが,Mさんがわたしの研究室に来たときに突然一緒にいらっしゃり,以来お友達になりました。お友達というか,学生なのですけれど),それからわたしの4人で,東京ドームの近くにある焼肉屋さんで「お疲れ会」をやったのです。

 近くのスタバで論文の原稿をチェックしていたため,少し遅れて焼肉屋さんに到着すると,学生3人(T君,Mさん,Iさん)はすでに4人がけのわたしが予約したテーブルに着席していました。窓の外の夜景には,ジェットコースターが見えました。たまにゴオオオオオオーーーーーという轟音が聞こえてきます。

 先に言っておきますと,わたしはジェットコースターが大の苦手なんです。乗りたいと思ったこともありません。最後に乗ったのは2000年だったと記憶していますが,司法試験の論文試験が終わったあと(の彼女にふられたあとで),夏休みに一緒に勉強をしていた女の子と横浜のみなとみらいに遊びに行ったときに乗って以来,かたくなにジェットコースターに乗ることを拒否しています。なぜかというと,このとき,司法試験の勉強疲れからか,乗ったあとに気持ち悪くなりふらふらになってしまったからです。

 さて話を戻しますが,ここで女子学生2人(IさんとMさん)から,とんでもないリクエストを受けることになるとは,予想だにしておりませんでした。

 焼肉屋さんの席に座るなり,なんと「先生,あとでジェットコースター乗りましょう」とさわやかに言われたのです。わたしは即座に「わたしは乗れないので,みんなで行って来たら?」とお断りしました。学生と先生の間柄ですから,ふつうはこれで「そうですか。残念です」で終わるもの……ですよね。ところが,そうはならず「あっ,このお店に入るまえにジェットコースターの終わる時間調べておきました。だから○時までにはこのお店を出て乗りましょう」と言ってくるではないですか。

 まあまあ,でも学生と先生の間柄です。わたしはもう1度丁重にお断りしました。「ジェットコースターは苦手なんですよね。だから3人で行って来たら? わたしは下から写真撮っておきますよ」と(下から写真撮っても,人は写りませんけどね)。

 それでいったんジェットコースターに乗る話は終わり,美味しい焼肉を食べて楽しい話をして盛り上がりました。論文の執筆疲れを吹き飛ばすべく,牛タンをたくさん食べながら,ああ美味しいって。その最中にも,またあのゴオオオオオーーーーーがですね,たまに聞こえてくるわけです。するとそのたびにIさんが「先生,本当に乗りますからね」と,念を押してくるではないですか。でもまあ,こういうノリの冗談なのだろう,こういう席だし,と聞き流しつつも,「わたしは乗りません」と断固拒否の姿勢を見せてきました。にもかかわらず,Iさんは,「先生,そろそろジェットコースターが終わりますので,お店出ましょう」とたたみかけてくるではないですか。

 ちなみにこの提案は,女子学生(IさんとMさん)からなされており,男子学生(T君)は「乗りましょう」と相槌を打つくらいだったのですが,少しはしゃいで食べすぎたせいか,途中から「いや,やっぱりやめましょう」と,わたしサイドにまわってくれていたのですね(さすがゼミ長,わかっています!)。

 ただ焼肉はもう十分食べましたので(美味しかったあ),会計を済ませるとお店を出て,とりあえずトイレに行きました。洗面所で手を洗いながらT君に「ジェットコースターは断固拒否しようね」と共同戦線を張ることを提案すると,「ですよね。僕もこのまま乗ったらヤバそうです」と賛同してくれました(さすがゼミ長! わかってる!)。考えてもみれば,IさんとMさんだってたくさん食べたばかりです。すぐにジェットコースターに乗るなんて現実にはできないはず……と思いつつトイレから出ると,「さあ,先生ジェットコースターです」とIさんとMさんから最終通告を受けました。2人とも背が高く,まえに一緒に並んで写真を撮ったとき,はさまれたわたしが小さくみえた記憶がある2人の目は……本気でした。

 エレベーターで下に降りると「もう時間がありません。先生,早く早く」と催促され,わたしはついに観念しました。ちなみに省略していましたが,焼肉を食べているときに「先生,ジェットコースターに乗れば,執筆のネタにもなりますよお」と何度も言われていたのですけど,心のなかでふと「もう仕方がない。でもあとで書いてやるからな」と,あきらめの境地に至りました(笑)。チケットを買いに行くとき,T君は「今日はやめましょうよ」とまだ抵抗をしていたものの,女子2人にわたしたち男子2人(うち1人先生ですけどね)は勝てませんでした。

 このジェットコースターは,わたしが過去に乗ったことがないレベルの高さであることは一目瞭然でした。わたしはこの近辺に,ご飯を食べに来ることはあるのですが,1度たりともこのジェットコースターに乗ることなど考えたこともありませんでした。それなのに,気がつくと重たい安全装置をつけられ,ベルトを締められ……。

 40歳を過ぎたわたしですが,20歳も年の離れた若い学生とジェットコースターに乗るなんて,きっとA山G院大学にでも来なければ,絶対になかったことでしょう。そう考えると,あとは楽しむしかないな,と観念しました(観念,観念と書いていますが,観念というのはこういう状態をいうのだと,初めて知りました,本当に)。

 わたしのイメージでは,ジェットコースターといえば,最初はかたかたとゆっくり上がり,頂点までゆっくり到達してから,そこから一挙に落ちる,というものだったのですが,最初からいきなりがんがん上に上がっていくじゃありませんか。これはもうジ・エンドです。焼肉を放出してふらふらになる危険性大です。でもプレゼミはもう終わったことだし,あとは野となれ山となれ,と……。

 が,しかし……。乗ってみたら,なんと,ジェットコースター,とっても楽しかったです。夜景もきれいで,スリル満点でした!

 え? ってなんだよ,ジェットコースター好きだったのかよ,と自分につっこみたくなるくらい,楽しんじゃいました。そして,降りたあとにふらふらになることもなく,身体も全然大丈夫でした。学生と一緒にいるうちに,40過ぎの先生も若々しくなってきたぜー,という感じです。

 さて今日の夜は楽しめたし,そろそろ帰るかと考えていると,Iさん,Mさんが「先生,次は二次会行きましょう」と言ってきました。これはもう行くしかありません。二次会は打って変わって居酒屋がいいとのことで,いわゆる居酒屋に行きました。だいぶ時間も遅くなり,居酒屋を出ると,Iさんが言いました。「そういえば今日は最初焼肉食べたんでしたよね。もう忘れちゃいました」。

 その焼肉屋さんはなかなかいいお店だったのですが,ジェットコースターに乗り,居酒屋でしゃべっているうちに,Iさん,すっかり忘れてしまったようです(あはははは)。

 さて,今回は本当にとりとめのないジェットコースターのお話になりましたが,そろそろエンディングです。

 わたしは司法試験受験生のころ,この遊園地の近くの大学で,5月のゴールデンウィークに「択一模試」を毎年受けていました。大学卒業後4回受けましたので,この遊園地のまわりを歩いて模試会場の大学までひとりで通うのも,毎年の恒例行事となっていました。そのときにいつも思っていたことがありました。「ゴールデンウィークにふつうに休めるっていいな」,「遊園地楽しそうだな」,そして「自分にもいつか,こういう場所で楽しめる日がやってくるのだろうか」と。

 このジェットコースターの会(いえいえ,本当は焼肉を食べる「お疲れ会」でした)が終わったあと,学生2人から個別に「司法試験に興味があるんです」というラインをもらいました。わたしは興味がある学生には司法試験を受けることを勧めていますが,それは弁護士という仕事が,世間でネガティブな情報ばかり出ているものの,本当はとても魅力的でやりがいがあるものだということを,経験上よく知っているからです。

 ジェットコースターに乗ることも拒否できないで学生に勧められて乗ってしまう,そんなわたしの姿をみて(笑),弁護士に興味をもってもらえたのであれば,乗っただけのことはあったというものです(身体はってます)。

 えっ? では,また次回お会いしましょうー。

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