第6回 ゼミのお話 

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©ふわこういちろう

 ゼミのお話をしたいと思います。もちろん,今回も,いきなり本題に入ります。と,そのまえに。連載開始から飛ばしていたこのゆるゆる時間ですが,前回の原稿を書いてからこの原稿を書くまでに約1か月経過してしまいました。不定期の更新とはいえ,間が空いてしまったことをお詫び申し上げます(って,第6回を待ってくれていた読者の方が,どれだけいるのかはわかりませんけど。え?)。

 ちょうど,この原稿を書く数日まえに,来年度のゼミの選考をしました。わたしのゼミはいまが1期生ですので,2期生の募集になります。4月にA山G院大学に着任したばかりです。翌年度のゼミ生を一次募集できるのは,今回が初めて。ということで,389名の履修登録がある「税法A」という大教室の授業や個人のツイッターなども使って,ゼミ生獲得のための宣伝活動も少しさせてもらいました。

 最初の説明会では70名もの学生が来てくれたようで大盛況だったようなのですが(ゼミ生に任せてわたしは行かなかったので,ゼミ生から聞いた情報です),なにしろこうした説明会や,そのあとに行ったオープン・ゼミ(ゼミを公開すること)など,歴史もないわたしのゼミにとってはすべてが初めてのこと。正直,あまりうまくアピールできていないことを早いうちに感じました(って,今回はまじめな感じですねって? いやいつもまじめで真剣勝負なんですよ!えっ?)。またわたしのゼミに応募したいと思っている学生は多いけど,「ゆるいゼミ」だといううわさが流れている(最近知った言葉ですがチャラゼミっていうみたいで,そんなジャンルのゼミだと誤解をされていたようなのですね。って,おまえが「ゆるゆる時間」なんて連載しているからじゃないかって突っ込みもありそうですが,たしかにそれで勘違いをされたのかもしれません。えっ?),そんな情報も耳に入ってきたんですね(いろいろな情報が飛び交うのですよね。ゼミ生もゼミ生でない学生も,いろいろな情報を教えてくれました。わたしこれでも弁護士なので情報は相当に収集します。はい)。それでわたしは,いかにたくさんの応募者が集まったとしても,ゼミに求めている学生と違うタイプの方に集まってもらっても困るなと思いまして(一応,旧司法試験に受かった実務家ですし,司法試験を受けるくらいの気概のある学生や,ディベート大会にも参加するのでそこでバリバリ活躍してくれるような学生に来てほしかったのですね),いろいろ考えたのです。それでこのようなことをいったら集まる人は激減するかもしれないけどそれでもいいやと思い(もともとわたしの授業って,厳しいものばかりですし),「志の高い人」をキーワードにすることにしました。まずはこのことを「税法A」の授業でさりげなく伝えました。また,個人のツイッターも使い,熱意のある人,司法試験を受ける人,そうでなくともディベートなどに真剣に取り組める人,そんな人たちを求めています,といったことを何回かにわたり書いたのですね。歴史もないゼミですから,逆に歴史をつくるぞくらいの気概のある人に集まってもらいたい。そんな気持ちをこめてメッセージを発信しました。当然ながら歴史のある人気ゼミがA山G院大学にはたくさんあります。新任教員で学内では知名度もなく,それなのになぜかゆるいゼミだと思われているとか,そんなうわさもあるとのことでしたから,正直わたしも悩みました。思い描いているような人たちに来てもらえないのではないかと。って,今日はほんとにまじめな感じですね(いやいつもですけどね。えっ?)。

 A山G院大学のロースクールの合格祝賀会(司法試験合格者のお祝いです)に参加したときに今年の合格者の教え子(A山G院大学(法学部)から同ロースクールに進学した方)にですね,そんな話をちょっとしたんですよ。「ゼミ募集が始まったのだけど,新任の1年目のゼミだから,人気ゼミにおされてなかなか人が集まらない気がしている」と。そうしたらその教え子は,「わかりました。僕に任せてください。僕が木山ゼミに入るように後輩に伝えます。僕は先生の弟子ですから何でもやりますよ。かぶりものでもかぶります」と冗談半分に(かぶる必要ありません)言ってくれたのです。それでちょうど次の日に大教室での「税法A」の授業があったものですから,ちょっとゲスト・スピーカーで話してもらえないかと頼んだところ,「すぐにかけつけます」と頼もしい返事をもらうことができました。 

 こうして翌日の授業の最初の10分くらいを使い,税法の勉強の楽しさやコツなどを話してもらったのですね。ただ,ゼミの話は彼の口からは全くでませんでした。それはわたしがいろいろ考えて,ゼミの宣伝はやはりしなくてよい,というかしないでほしい,授業を受けている受講生全員のためになる話こそが授業には求められているから,と,事前に伝えていたのです。自分たちの先輩が司法試験に受かったということは,司法試験を目指していない人でもインパクトがあるはずです。ただ最後に,彼はこう言いました。「あっ,僕は○○ゼミで税法を学んで税法が楽しいと思ったのがきっかけだったのですよねー」と(笑)。

 その○○ゼミって,わたしのゼミと同じ税法で大変人気のある,いわば競合ゼミなのですよ。あっ,これは(笑)と思ったのですけど(これでは,○○ゼミの宣伝をしてもらっただけになってるのではないかーーーーーと,ですね。しまったーーーーと)。

 それはともかく,彼がわたしのために来てくれたことが,わたしはとても嬉しかったのです。そして,ゼミを選んでもらえるかどうかは,ひとえにわたしの力にかかっているぞ,ということをそのとき感じました。

 ここからワープします(そろそろ終盤です。また,ワープかよ!って,そうですワープです。最後はワープすると文字数短縮できるのです)。どこにワープするかというと,わたしが大学3年生のときです。わたしはJ智大学法学部だったのですが,4年生からゼミがありました。希望したゼミは当時まだ40代前半の若くして教授になられたばかりでありながら,著作が多く司法試験にも在学中に受かっていたという大人気の先生のゼミだったのです。この先生は授業がとてもわかりやすくてですね,それまで法学部の授業が難しすぎて,説明なく飛び交う専門用語をまえに教授の話がさっぱりわからなくて困惑していたわたしにとって,目から鱗が落ちる「衝撃的な授業」だったんです。先生は新しい専門書を次から次へと書かれていて,書かれるたびに教室にその新刊をお持ちになられて学生にまわされるのです。専門書なので4000円とか5000円とかする高いものだったのですが,わたしはその先生の新刊が出るたびにすぐに購入して読みました(ちなみにそれらの本を当時編集されていた方が,なんといまこのページの出版社でわたしの本の編集を毎回担当してくださっている方なのですよ。ご縁ですね)。本はやはり難しかったのですが,先生の授業がわかりやすかったので,「この先生についていけば,わたしももしかしたら,法律をマスターできるかもしれない!!!」と(大学1年生で憲法の単位を落とし,大学2年生で民法の単位を落としていたわたしは)思ったのです。

 それで,その先生のゼミ以外に入りたいゼミはなくて,その先生のゼミに応募をしました(いまと違い説明会やオープン・ゼミなどはありませんでしたので,ただ申請書を出しただけと記憶しています)。人気のゼミだったので合格になるか期待と不安でいっぱいでしたが,その先生の授業は一生懸命勉強していて,たしかAもとれていたのがよかったのか,選抜されました。ゼミ生の数は数十人もいて,しかも,初回のゼミのときに,同級生のゼミ生(4年生)がすでに(前年の)3年生のときに司法試験に合格したことを知り,そんな同級生がいたことにも衝撃を受けました(旧司法試験の時代に在学中に一発合格というのは,J智大学では数年に1人出るか出ないかくらいの希少なことでした)。でもそんなゼミに入れて,わたしの士気も高まりました。わたしが司法試験に合格するのはそれから4年後になりますが,合格の報告にその先生の研究室にいったところ,先生から「ちょうどこれからゼミがあるから,ゼミに来て話をしてくれない?」といわれ,先生のゼミで司法試験合格の話をしたことをおぼろげながらですが記憶しています。

 そんな大学時代のことを思い返して,ああ,近づけるかはわからないけど,大学生のころにあこがれたあの先生のように自分がなれるよう,努力をするしかないんだな,と思ったのですね。

 歴史のない1年目の新任教員のゼミにどれだけ人が集まるかは,自分が学生からあこがれられる存在になれているかどうか,それだけだと何となく気づくことができました。となると,わたしにあとできることは授業です。授業であこがれたあの先生に近づけているか,自分があこがれたあの先生のような存在になれているか,少なくともなるための努力をしていこう。そう思いました(授業はもともとやりがいのある仕事なのですが,改めて気合いを入れなきゃと思うことができました)。

 長くなりましたが,そんな想いを思い出させてくれたのが今年のゼミ募集でした。あこがれの力って,すごいですよ。何をやりたいのか,将来のことなどでもやもやしている人は,まずは身近に(身近でなくても著名人でもいいので),あこがれの存在がいるか考えてみるとよいですよ。なれるかなれないかは,わかりません。でも強くひかれる,あこがれる,そんな人の輝きをみていると,自然と磁場がそちらに働き導かれる,ということはあると思います。学生時代のわたしがそうであったように。大学生活にまだ慣れておらず,いたらぬところも多いと思いますが,いつかわたしもそんな存在になることができればな,と日々邁進していく所存でございます……。

 では,今回はこのへんで……って,えっ? 所信表明みたいので終えるなよって。それでは,次回また(いつになるかわかりませんが。えっ?)お会いしましょうー!(この連載大丈夫かなあ)。

 

追伸:ゼミは定員20名を超えるご応募をいただき,選考の結果,定員どおりの員数を確保することができました。応募してくださった学生には「わたしがゼミの歴史をつくりたい」「名門ゼミにしたい」といった意気込みを書かれている方も多く,感激しました。新しく入られることになったゼミ生,そして新任教員のどんなものともわからなかったであろうゼミに応募をしてくれた,いまのゼミを支えてくれている現ゼミ生とともに,わたしもがんばりたいと思います。

 なお,新任の木山ゼミに多くの方が集まってくれたのは,現ゼミ生のがんばりにあります。応募期間中にオープンゼミで行ったゼミ生同士のディベートはとても迫力がありましたし(みにきてくれた学生から大変好評でした),税理士とのディベート大会で専門家相手に引き分けたことも,現ゼミ生が一丸となって,ゼミ生獲得のためにがんばってくれたことです。

 あ,わたしは,結局何もやってないや(笑)。

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