第7回 予行演習のお話

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©ふわこういちろう

 予行演習のお話をしたいと思います。もちろん,今回もいきなり本題に入ります。この連載で以前に,試験監督の話にまぎれて,本番で緊張しないための方法は,あらかじめイメージしておくことだ,ということをお話しました。最高裁の弁論であるとか,テレビ出演のときとかですね,そんな具体例を挙げました。今回お話する予行演習は,このテーマと関連します。本番で上手に話すためには,どうしたらよいのか,ということですね。

 イメージをしておくと,本番での緊張は和らぎます。たとえば,あなたが明日ゼミで発表をする,という場合,ゼミの教室をイメージすることです。そこでどの席に座り,どんな聴衆がそこにはいて,先生はどんなことをいってくるだろうか,どんな質問が出そうだろうか,ということをよく知っているメンバーの顔を思い浮かべながらイメージします。知っている教室ですから,事前に発表者の席に座ってみるのもよいイメージ喚起になりますよ。

 わたしの場合,初めての会場での講演が,日常的にあります。その場合も出席者の人数や属性(わたしの場合は税理士の先生に講演することが圧倒的に多いので,すでにその属性をよく知っています),会場などの情報を得ておけば,わざわざ現場に行かなくてもおおよそのイメージはできます(わたしのように講演に慣れてしまっている場合,その程度の情報でだいたいイメージできてしまうのですけど,あなたがもし慣れない発表や講演などを行うのであれば,会場の下見までしておくことをおすすめします。わたしも昔はしていました。発表当日の直前に会場をみておくだけでも全然違いますよ)。

 さて,こうしたイメージも大事なのですが,本番で上手に話すためには,もう1つコツがあります。それは現場でなくてよいので(自分の部屋とか家のなかでよいので),予行演習をしておくことなんです(これ,とても重要ですよ!って,今日は講義みたいですね)。

 最近,わたしの大教室の授業や数百人の聴衆がいるなかで行われた税理士会の講演などをみてきたゼミ生から,「先生はどこで話すときでも全く緊張していないようにみえるのですが,コツとかあるのでしょうか」と質問をされました。コツとかは……,はい,ありますよ。わたしの場合はすでに経験によって「場慣れ」状態になっているのです。

 そうでない方が緊張せずに上手に話すためには,イメージと予行演習をコツとして挙げておきたいと思います。イメージは予想と違った場所や環境になってしまったときに「あたまが真っ白になる」状態を防止し,スムーズに緊張せずに話すために必要です(慣れている人は,ささやかな情報でそのイメージを瞬時にしてしまうので,ものの数秒でできるように,いずれはなりますが,慣れないうちは時間をかけてでもやりましょう)。

 予行演習については,ワープしてお話したいと思います。って,またワープかよ!って,そうです。ワープは便利なんです。この連載のように紙面に限りがある場合には(ははは。毎回適当ですねー。えっ?)。ということで(どういうことで?),弁護士になってまだ間もない2003年にワープします。わたしが弁護士として活動をはじめたのは2003年10月27日からです(この日からT飼総GO法律事務所に入所し,働き始めました。29歳のときです)。弁護士になって間もないわたしは(社会人経験もありませんでしたから)どのようなシーンも慣れないことばかり。それにもかかわらず,新人のわたしがこの日,ある大企業で税務に関する行政不服申立て(審査請求といって国税不服審判所で争います)の代理人として,その手続を役員の方などに説明することになったのですね(まだ経験もないのにあるかのように説明しないといけなかったこのころは大変しんどかったですが,がんばりました)。

 もちろん,ひとりでやるのではなく,パートごとに担当の弁護士や税理士が順番に説明をするのですが,わたし以外の担当者は人前で話すことに慣れている,そしてプレゼンが上手な方ばかりでした。そこにわたしが「では,わたくしからは,○○の点について説明をさせていただきます。こほん」といって(いや,こほんとはいいませんけど),プレゼンをすることは想像するだけで(イメージするだけで),緊張し「あーいやだなあ」と思ってしまうような不慣れなことだったのです(いまからは想像もつかないかもしれませんが,わたしはそのことをよく覚えています)。

 そのプレゼン,結論からいいますと「とてもわかりやすかった」とほめられました。そして初めての説明だったとはおそらく思われませんでした(いや,年齢からしても初々しさはもちろんあったと思いますけど)。どうして臨んだかというと,予行演習を行ったのです。経験も知識もない新人弁護士が,大企業の取締役の方々をまえに堂々と説明をするためには,予行演習しかないぞ!と。

 何をしたかというと,わたしは説明のために準備をした資料を本番のつもりで,自宅の自分の部屋で読み上げる練習を,時間を測りながらやりました。20~30分の持ち時間があることを前提にだったと思います。自分の部屋でひとり読み上げます。だれもみていませんから,間違えても大丈夫です(何も恥ずかしくありません。この状態が重要です)。ただし,途中でやめないで通しで本番のつもりで話すのです。資料をみながら,「それでは始めさせていただきます。お手元の資料の1頁をご覧ください。1のところからご説明させていただきます。」というふうに,です。これをやってみると,およそ時間内に終わらないぞ,ということがわかりました。意外としゃべってしまうと,ダラダラやってしまうんですね(慣れていない人ほど,話は長くなるものです)。それで,30分で終えるべきものが45分にも50分にもなってしまったときに,どこをカットすれば15~20分を短縮できるだろうか,と考えてみました。それで説明資料にメモをして,ここは必要以上に入りこまないとか,ここは短くとか,ここは簡潔にとか,逆にここはしっかりと,みたいに話す内容のメリハリをメモして,それでもう1度予行演習をしたのです。そうすると,今度は早く終えようとしているので,これが早すぎで(笑),なんと15分くらいで終わってしまいました。これでは短すぎると,これをまた時間を測りながら調整して30分になるようにトライをするのです。そんなことを休日や平日の夜に,何度も何度もやりました。このやり方は講演であれば,講演の時間どおりに話せる練習をすればよいことになります。これに対してクライアントに説明をする場合には,いままで30分といっていましたが,実際に30分もらえるかは本当はその場に行ってみなければわかりません(全体の時間はわかっていても,他の報告者が長引くことも逆に短いことも考えられるからです)。そこで,30分であればこれくらい,20分であればこれくらい,15分であればこれくらい,10分であればこれくらい,と伸縮自在に話せるレベルまで,予行演習をして準備をしました。

 ここまでやれば,本番では何もみなくても話せるくらいになっています。また時間との関係で考えても,その場の状況に応じて自由に調整ができます。時間が足りなければここをカットしよう,とか,わかるのですね。そんな予行演習を,わたしは新人弁護士のころから人前での説明が自然とできるようになるまで,毎回必ずやりました。講演での話し方については,また別のコツもありますので,別の機会にお伝えしたいと思いますが,ビジネス書をいろいろ書いてきたわたしの持論は「どんなことにも技術がある」です。「わたしは,○○が苦手だ」というのは,「○○の技術をもっていない」だけです。そしてそれを意識してトレーニングしていないだけだと思います。

 話をすることが苦手だったわたしが(学生時代は,とてもとても苦手だったのです),いまではどんな場所でも,どんな大人数の場所でも,6時間の講演でも,ごくふつうに話せるようになっていることが,それを実証していると思いませんか。

 だから,いまは話すことや発表することが苦手なあなたも,どんどん練習と経験を重ねることで,メキメキうまくなっていきますよ。

 あっ,ちなみに予行演習のデメリットもありますので,最後に伝えておきましょう。

 それは,自分でこうしようというのを強く決めてしまうと,本番で柔軟性がなくなることです。今日のお話のとおり,30分で話すという完ぺきなものを準備するのではなく,現場の状況に応じて10分ならこんな,20分ならこんな,30分ならこんな,というふうに伸縮自在にできるように準備をするのがポイントです。

 やったー!あこがれの,あの○○さん(○○くん)と,デートできることになったぞーーーーーーー!というときに,デートプランを念入りに考えすぎて,失敗するタイプになってはいけません。でもデートも慣れが必要ではあります。同様に話すのも,やはり慣れが必要にはなります。

 ただし,注意してくださいね。漫然と数をこなせばよいのだよ,という慣れではない,ということです。これでは単なる惰性ですよね。真剣勝負の数をこなすのです。その都度あなたには,あなた固有の課題があるはずです(たとえば,今日は自然と手をつなぐぞ,とか,今日こそは!とか笑)。

 がんばってみてください(デートも発表も)。では,また次回お会いしましょー。

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